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東京地方裁判所 昭和46年(特わ)1799号 判決 1985年10月16日

被告人 松尾眞

昭二五・三・二九生 職業不詳

主文

被告人を懲役三年に処する。

この裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(認定事実)

第一被告人の経歴

被告人は、昭和四三年四月京都大学経済学部に入学し、その年からいわゆる沖縄デーや国際反戦デー等の集会などに参加する一方、教養学部の自治会活動に関与し、翌四四年五月中旬ころから革命的共産主義者同盟(以下「革共同」という。)傘下の全日本学生自治会総連合(以下「中核派全学連」という。)に加入して、以後本格的に学生運動に没頭するようになり、同年八月中核派全学連の中央執行委員会委員長に選出された。

第二沖縄返還問題及びそれを巡る昭和四六年当時の社会情勢

一  沖縄は、昭和二七年四月二八日発効の日本国との平和条約(いわゆるサン・フランシスコ講和条約)三条の規定により、アメリカ合衆国の統治下にあつたが、昭和四四年一一月に訪来した当時の佐藤首相とニクソン大統領との会談で沖縄の施政権が昭和四七年中に返還されることが合意され、右会談後に発表された日米共同声明の中でその旨が明らかにされ、昭和四六年六月一七日には返還に関する大綱等を定めた琉球諸島及び大東諸島に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定(以下「沖縄返還協定」という。)が日米両国間で調印されるに至り、同年一〇月一六日に召集された第六十七回臨時国会において、右協定の批准承認案及びその関連法案並びに出入国管理法案等が審議され、同年一一月一七日には衆議院沖縄返還協定特別委員会で右協定批准承認案は採決された(なお、同案は、同年一一月二四日衆議院において、翌一二月二二日参議院において、いずれも可決承認された。)。

二  沖縄の現地においては、本土復帰運動そのものは早くからあつたが、前記日米共同声明、沖縄返還協定が発表される前後ころからそれに関し賛否両論の運動が盛んに展開され、昭和三五年に労働団体など一三〇以上の団体で組織された沖縄祖国復帰協議会など、返還協定の内容に反対する立場からは、施政権は日本に返還されるが日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(いわゆる日米安全保障条約)のもとで沖縄の軍事基地としての機能は維持強化されるとの理由で、即時無条件全面返還をスローガンに掲げて沖縄返還協定粉砕運動を展開し、昭和四六年五月一九日及び一一月一〇日の二回にわたつて沖縄のほぼ全域でいわゆるゼネストが決行された。

三  反帝国主義・反スターリン主義の基本戦略に立脚しプロレタリア世界革命を実現して共産主義社会を建設し、労働者階級の自己解放を通して全人類を解放することを主たる綱領とする革共同は、いわゆる七〇年闘争において、「沖縄奪還、安保粉砕、日帝打倒」をスローガンに掲げて、昭和四六年当時も各地で集会を開催するなどして闘争を繰り返していたが、その機関紙「前進」に別紙一記載の記事等を掲載し、近づく秋の沖縄返還協定批准の国会審議に時を合わせ、その批准阻止等のためには武装闘争が必要であること等を繰り返し訴え、右闘争への参加を呼びかけていた。

四  中核派全学連は、昭和四六年秋期闘争の開始を目前にした八月二九、三〇日の両日、都内所在の牛込公会堂及び千駄ヶ谷区民会館において、第四五回中央委員会を開催したが、そのころ全学連中央書記局情宣部編集名義で頒布した「10―11大暴動の実現を」と題する全学連討議資料において、別紙二記載の記事を掲載し、沖縄返還協定批准等を阻止するためには機動隊せん滅が不可欠である旨を訴えた。

第三罪となるべき事実

被告人は、

一  昭和四六年一〇月二一日、東京都千代田区日比谷公園一番四号日比谷大音楽堂において、全国反戦、関東叛軍及び東京入管闘三団体共催の「一〇・二一沖縄返還協定批准阻止、自衛隊沖縄派兵阻止、入管法・外国人学校法案国会上程阻止全国総決起 中央総決起集会」の席上、午後九時ころから約八分間にわたつて、参集した学生、労働者ら約六、〇〇〇名に対し、沖縄返還協定の批准等に反対する目的をもつて、警備等の職務に従事している警察官に対し、凶器を携え多衆共同して暴行を加えてその職務の執行を妨害する罪を実行させる意図で、「今ここにある国会において、返還協定の批准と入管法の上程が何によつてなされようとしているか、いうまでもなく機動隊である。」、「我々労働者人民は断固として武装した力を持たなければならない。」、「我々に今や平和的な言辞は一切必要ないだろう。本集会に結集したすべての諸君、一万数千人を投入した厳戒体制なるものを断固として粉砕しようではないか。私服を粉砕しようではないか。」、「すべての諸君、本集会に結集したすべての諸君が自らの攻撃性をいかんなく発揮し、自ら武装し、機動隊をせん滅せよ。これが本集会の一切の結論だろうと思います。結集したすべての諸君、直ちに国会に向かつて機動隊、私服をせん滅して猛進撃しようではないか。」などと演説し、もつて、政治上の施策に反対する目的のもとに、凶器を携え多衆共同して警察官に対し暴行を加えてその職務の執行を妨害する罪のせん動をなした

二  同年一一月一〇日、同都港区芝公園二三号地において、前記三団体共催の「一一・一〇沖縄全島ゼネスト連帯中央総決起集会」の席上、午後八時四〇分すぎころから約九分間にわたつて、参集した学生、労働者ら約一、六〇〇名に対して沖縄返還協定の批准等に反対する目的をもつて、同月一四日都内渋谷区内において、現住建造物等の放火罪、殺人罪、騒擾罪及び凶器を携え多衆共同して警備等の職務に従事する警察官に対し暴行を加えてその職務の執行を妨害する罪を実行させる意図で、「本日の沖縄ゼネスト暴動に応えて、来る一四日渋谷に大暴動を実現するための方針と決意を明らかにしたいと思います。」、「日本帝国主義のアジア侵略の道具以外の何ものでもなくなつた国会そのものを爆砕し、いや国会で物事が決まつていくというこの我慢のできない腐敗しきつた形態をこつぱみじんに粉砕し、文字通り我々労働者人民と、機動隊傭兵に囲まれての支配階級との決戦から我々の未来を勝ちとつていかなければならない。」、「もはや結論は、一四日渋谷に総結集し、そしてそこで機動隊を徹底的にせん滅して大暴動を実現すること、この一点以外に何ものもないと思います。」、「我々は九月の三里塚決戦において、確かに機動隊三名を殺すという偉大な戦果を勝ちとつている。しかしながら、その時同時に、死の危機に瀕していた機動隊を我々自身が病院に送り込み――という許し難いこういつた行動を行つたということを同時に知つておかなければならない。」、「一四日の闘いの一切の鍵は、我々が緒戦において機動隊を徹底的にせん滅するかどうかということにかかつているということをはつきり確認しなければならない。我々が機動隊を一人でも多くせん滅した瞬間、我々は渋谷に結集している数十万の人民との大合流を勝ちとることが必ずできるんだということを確信しようではないか。」、「我々は人民大衆の一四日渋谷の総決起を確信し、なんとしてもこれとの大合流を勝ちとつて、そして、渋谷において、機動隊せん滅のみならず渋谷駅を断固として焼き払い、銀行をはじめとする独占資本を焼き払おうではないか。」、「暴動的状態をつくり出すことこそが一四日の闘いの鍵であるということをはつきり確認しようではないか。我々は、すでに一四日の戦いに向かつて全国の警察官とそして私服刑事、自警団の諸君に対して警告を発してきた。にもかかわらず、彼らがなお警察官たることをやめず、あるいは反革命党員たることをやめずに、一四日渋谷にやつて来るならば、これは殺す対象以外の何ものでもないことを我々ははつきり確信しなければならない。本集会のまわりにいる機動隊員諸君、あるいは本集会にまぎれ込んでいる私服刑事、我々は断固として君達を一四日にせん滅し、そのピストルを我々の手に奪い、君達を断固としてせん滅するだろう。そして、本集会に結集しているすべての諸君、一四日までに残された日にちはあと三日だ。我々は、この残された三日間、更に大胆に渋谷に行き渋谷の地理を習熟し、どこに武器が隠されているのか、そういつたことをことごとく自らの頭の中にたたき込んで渋谷に行こうではないか。」、「武器を調達し、そこで自らを武装し、徹底的に機動隊をせん滅しようではないか。一四日の大暴動をもつて文字通り日本階級闘争の内乱への突入を勝ちとろうではないか。このことが、本日機動隊員一名を殺した沖縄人民の戦いに応える道だろうと思います。我が全学連は、そして中核派は、一切の攻撃を粉砕して必ずや一四日渋谷に登場し、渋谷の機動隊員を撃滅し、一切の建物を焼き尽くして渋谷大暴動を必ず実現するということをはつきりと決意表明したいと思います。」などと演説し、もつて、政治上の施策に反対する目的のもとに、刑法一〇八条の罪、同法一〇九条一項の罪、同法一九九条の罪、同法一〇六条の罪及び凶器を携え多衆共同して警察官に対し暴行を加えてその職務の執行を妨害する罪のせん動をなした(なお、右被告人の演説のうちダツシユ部分は、後掲証拠によつても特定できないことを表す。)

ものである。

(証拠の標目)(略)

なお、弁護人は、本件各集会に警備公安担当の警察官が立入つたうえ、被告人らの演説内容をその承諾を得ることなく録音したことをとらえて、これらの各行為はいずれも憲法一九条、二一条一項所定の思想、表現、集会、結社の各自由を侵害するものであるから、これによつて得られた証拠には証拠能力がない旨主張するが、本件各録音採証活動が右各自由を侵害するものではないことは当裁判所が既に第五九回公判(昭和五六年三月二七日)における証拠決定中で明らかにしたとおりであつて、弁護人の右主張は失当である。

(法令の適用)

被告人の判示第三の一の所為は破壊活動防止法(以下「破防法」という。)四〇条三号、刑法九五条に、判示第三の二の所為中、騒擾罪をせん動した点は破防法四〇条一号に、殺人、現住建造物放火及び非現住建造物放火の各罪をせん動した点は包括して同法三九条、刑法一九九条、一〇八条、一〇九条一項に、警察官に対して凶器を携え多衆共同して公務の執行を妨害する罪をせん動した点は破防法四〇条三号にそれぞれ該当するところ、判示第三の二は一個の行為によるものと評価すべき場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により最も重い破防法三九条の罪で処断することとし、各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、判示第三の一及び二の各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により重い判示第三の二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、被告人を懲役三年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文により全部被告人に負担させることとする。

(弁護人の主張に対する当裁判所の見解)

弁護人は、破防法三九条、四〇条の違憲性をはじめとする種々の主張をなし、被告人は無罪である旨主張しているので、以下その主要な点に対する当裁判所の見解を示すこととする。

一  弁護人は、まず第一に、破防法三九条、四〇条のせん動罪は何ら当罰性のない言語的行為を罰するものであつて、表現の自由を保障する憲法二一条一項に違反するとして、以下のとおり主張している。すなわち、現行刑法においても名誉毀損、わいせつ文書頒布等の如く単なる言語的行為を刑罰の対象としているものがあるが、これは言語的行為が直截的に右刑罰によつて保護されている法益を侵害するからであり、また同じく言語的行為である教唆犯が罰せられるのも、被教唆者の実行行為を伴うことによつて教唆自体を実行行為に準ずるものとみなし得るからである。しかるに、破防法三九条、四〇条のせん動罪においては、被せん動者による実行行為はもちろんのこと、実行の決意の発生さえも必要とされていないのであるから、その処罰は思想表現そのものの処罰にほかならない。言語的行為は、その内容がいかに過激であつても、このことを理由として刑罰の対象とすることは思想表現の自由に対する侵害そのものであつて、このように何ら当罰性のない言語的行為を刑罰の対象としている破防法三九条、四〇条のせん動罪は憲法二一条一項に違反する、というのである。

確かに、破防法三九条、四〇条のせん動罪は、政治上の主義若しくは施策を推進し、支持し、又はこれに反対する目的(以下「政治目的」という。)をもつてなす現住建造物放火罪等の犯罪(以下「特定の犯罪」という。)のせん動を処罰するものであり、同法四条二項によれば、せん動とは特定の犯罪を実行させる目的をもつて文書若しくは図画又は言動により、人に対し、その犯罪行為を実行する決意を生ぜしめ、又は既に生じている決意を助長させるような勢のある刺激を与えることをいうというのであるから、右せん動罪が成立するためには、被せん動者による特定の犯罪の実行行為はもちろんのこと、被せん動者に犯罪実行の決意が現実に生じたことも必要としないことは右の規定自体から明らかであり、したがつて、破防法三九条、四〇条のせん動罪が表現活動そのものを刑罰の対象としているものであることは弁護人指摘のとおりである。

しかしながら、せん動罪が、当該表現の内容そのもの、あるいは、表現活動が本来有しているところの他に対する影響力をとらえてこれを処罰しようとするものではなく、当該表現活動が客観的に見て、人に対し特定の犯罪を実行する決意を生ぜしめ、又は既に生じている決意を助長させるに足りるものに限りこれを処罰しようとするものであることは右のせん動の定義規定からして明らかである。そして、このような表現活動は被せん動者による実行行為等をまつまでもなく、破防法三九条、四〇条の予備、陰謀罪と同様に社会的に危険な行為と評価し得るのであつて、表現活動といえどもこのような危険性を有するに至つたものについては刑罰を科してこれを制約したとしても、憲法二一条一項の表現の自由を侵すものというべきではない。憲法二一条一項の保障する表現の自由といえども、このような危険性を有する表現活動の自由をも許容するものではなく、ここに表現の自由に本質的に内在する制約があるというべきである。

したがつて、破防法三九条、四〇条のせん動罪は何ら当罰性のない表現行為を処罰するものであるから、憲法二一条一項に違反するとする弁護人の前記主張は採用できない。

二  次に弁護人は、破防法三九条、四〇条のせん動罪は政治目的をもつてなすところのせん動のみを刑罰の対象としているが、破防法の他の罰則規定をも勘案すると、右は政治目的の内容をなすところの政治思想そのもの、とりわけ共産主義的政治思想を処罰しようとするものにほかならず、思想信条の自由を保障する憲法一九条及び表現の自由を保障する憲法二一条一項に違反する旨主張している。

しかしながら、破防法三九条、四〇条のせん動罪が政治目的を有するせん動のみを刑罰の対象とし、政治目的のないせん動を不可罰としていることは、その構成要件上明白であるが、政治目的を有するせん動は、政治目的のないせん動に比して、被せん動者によつてなされるところの実行行為が大規模かつ反覆してなされる可能性が高く、更に政治目的達成のために暴力を行使することは、単なる暴力の行使の場合と異なり、憲法が前提とする民主主義秩序そのものを否定することになる点において違法性が強いのであつて、このことはひいてはせん動そのものの危険性、違法性も一段と強いと認められるのであり、政治目的を有するせん動のみを処罰することには十分な合理性があるというべきである。そして、このような主観的な目的を有する行為のみを処罰するからといつて、これが主観的目的そのものを処罰するものでないことは右に述べたことから明らかであり、また共産主義的政治思想に基づくせん動のみを処罰しようとするものでないことも規定上明白であつて、破防法三九条、四〇条のせん動罪が憲法一九条、二一条一項に違反するとの弁護人の前記主張は理由がない。

三  弁護人は、被告人の本件各集会における演説は、沖縄返還協定の反憲法性、反人民性を深く認識し、佐藤政府の反動性とその政策の違憲性を鋭く糾弾し、右政府こそ行政権力の独裁的行使によつて議会制民主主義を破壊する元凶であることを看破し、昭和四六年一〇月、一一月の沖縄奪還闘争への参加を訴えたものであり、政治思想の表現にほかならないのであつて、このような被告人の政治思想の表現である演説に対し、破防法三九条、四〇条のせん動罪を適用することは、憲法一九条、二一条一項に違反する旨の主張をしている。

しかしながら、判示認定の被告人の演説は、当該演説の全内容に照らしても、単なる政治思想の表現にとどまるものでないことは明らかであり、これが破防法三九条、四〇条のせん動に該ることは後記認定のとおりである。

四  更に弁護人は、破防法三九条、四〇条のせん動罪は憲法三一条に違反するとして次のように主張している。

1  破防法三九条、四〇条はその構成要件が曖昧であつて不明確である。すなわち、同法四条二項はせん動を定義するが、この規定をもつてしても一般人にとつてはどの程度の行為がせん動に該るのかという判断が極めて困難であり、その限界ははなはだ曖昧であつてこのような不明確な刑罰規定は憲法三一条に違反する。

2  せん動における「勢のある刺激」はそもそも訴訟法上立証が不可能な概念であり、このような立証不可能な事項を構成要件とする破防法三九条、四〇条のせん動罪は罪刑法定主義に反し、憲法三一条に違反する。

すなわち、本件の如く、せん動が公開の集会における演説によつて、その場に居合わせた不特定の大衆を対象になされた場合には、「勢のある刺激」があつたか否かの判断にはその大衆の大半のその時点における内心の理解過程の立証が不可欠となるが、このような立証は物理的にも理論的にも不可能である。

せん動罪が憲法上最大限の尊重を要する表現活動そのものを刑罰の対象としていることは前記のとおりであり、したがつて、その犯罪構成要件はできる限り明確にされなければならないことは所論のとおりである。

しかしながら、犯罪構成要件を定めるにあたつて、例えば客観的に明確な数量的な用語のみを使用して定めるようなことはもとより不可能であり、ある程度概念に幅のある用語を使用して構成要件を定めても、これが通常の判断能力を有する一般人の理解において具体的場合に、当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読みとれるものである限り、憲法三一条に違反する不明確なものというべきではない(最判昭和五〇年九月一〇日刑集二九巻八号四八九頁参照)。

これを破防法三九条、四〇条のせん動についてみるに、せん動の定義は前記のとおりであつて、これをより厳格、詳細に定義することは困難であると考えられるとともに、「その行為を実行する決意を生ぜしめ又は既に生じている決意を助長させるような勢のある刺激」という用語も、価値判断を伴うものではあるが、前記のような危険性を有する表現活動のみを罰する趣旨のものであることは明らかで何ら不明確なものとはいえず、このことはせん動と同義に解釈されている国家公務員法一一〇条一項一七号の「あおり」をもつて犯罪構成要件の内容が漠然としているものとはいい難いとされている(最判昭和四八年四月二五日刑集二七巻四号五四七頁参照)ことに照らしても明白であつて、かつ特定の犯罪が現住建造物放火等の重大な犯罪に限定されていることをも併せ考慮すれば、通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的な場合に、当該表現活動が破防法所定のせん動に該るか否かの判断はおのずから可能であると解される。

したがつて、破防法三九条、四〇条のせん動罪の規定が不明確であるとする弁護人の主張は採用できない。

また、特定の犯罪を「実行する決意を生ぜしめ又は既に生じている決意を助長させるような勢のある刺激」があつたか否かは、本件のような演説についていえば、その表現内容や口調のほか当該演説者の地位、所属する団体、その政治目的、闘争方針等、当該集会の主催者、目的等、当該集会における聴衆の総数、構成、反応等更には当該演説がなされるに至るまでの社会的背景事情、演説後における情況等をも総合して判断されるのであり、右のような事情の立証が不可能を強いるものでないことは明らかである。

これに対し弁護人は、勢のある刺激であつたか否かの判断には演説の相手方である聴衆の大半における内心の理解過程の立証が不可欠である旨主張するが賛成できない。またもし仮にそのような立証が必要であるとしても、そのような立証が理論的にも物理的にも不可能であるとはいえないことは明らかである。

なお、前掲各証拠によれば、以下の事実を認めることができる。

1  昭和四六年一月から一〇月ころまでの間に、警視庁管内においては同年六月一七日の明治公園における警察官ら二十数名が重軽傷を負つた鉄パイプ爆弾爆発事件をはじめとして、いわゆる過激派と目される者らによると思われる爆弾使用事件等が未遂を含めて一〇件位発生しており、また同年九月には、千葉県三里塚の成田空港周辺において警察官三名が死亡するという事件が発生した。

右事件について同月一八日付「前進」号外は「三里塚 機動隊を粉砕 敵権力に階級的報復の鉄槌下る」との大見出しのもとに、右事件を積極的、肯定的に報ずるとともに、別紙一4記載のような被告人の記者会見記事を掲載した。

2  昭和四六年一〇月二一日、日比谷公園における集会参加者約六、〇〇〇名のうち、その約三分の一の者がヘルメットを着用しており、そのうちの大部分は革共同及び中核派全学連(以下本項においては両者をあわせて「中核派」という。)の同調者らであると思われる白ヘルメツトを着用していた。

また、同年一一月一〇日の芝公園における集会参加者約一、六〇〇名のうち、その約八割の者がヘルメツトを着用しており、その大部分も中核派の同調者らと思われる白ヘルメツトを着用していた。

被告人は、右各集会において、判示のような内容の演説を激しい口調で行い、これに対し参加者の多くが、随所において拍手、喚声をあげるなどしてこれに呼応した。

3  右一〇月二一日の日比谷公園における集会終了直後ころ、同公園内において、主に白ヘルメツトを着用していた集会参加者の一部が、警備にあたつていた警察官に対し投石をし、あるいは所持していた竹ざお等で突き当たるなどの行為に出、約九〇名が逮捕されるという事件が発生した。

また、右芝公園における集会の四日後である同年一一月一四日、国電渋谷駅周辺においては、国電が止められ、警察官に対する石、火炎びんの投擲等がひん発したほか、交番等への放火がなされたうえ、警察官一名が火炎びん等によつて殺害されるという事件が発生したが、これに加わつた者のうちには、同月一〇日の右芝公園における集会に参加し、被告人の演説を聞いた者も含まれていた。

以上のような事実及び判示認定の各事実を総合すると、当時のいわば騒然とした社会情勢のもとで、武力闘争を支持肯定する判示のような闘争方針を掲げていた中核派の最高指導者の一人である被告人が、右のような中核派の闘争方針を支持する者らが多数参加していたと認められる前記各集会において、判示のような極めて過激な内容の演説をするときは、右集会参加者らをして、その演説において呼びかけているところの特定の犯罪を現実に実行させる危険性が極めて高いものと認めるに十分であり、このことは現に被告人の演説内容に相応する犯罪行為が集会参加者あるいは集会参加者を含む者らによつて行われていることからも裏付けられるというべきである。

したがつて、被告人のなした右各演説が破防法三九条、四〇条のせん動に該ることは明白である。

五  弁護人は、破防法三九条、四〇条のせん動罪はいわゆる具体的危険犯であり、その成立のためには、同法の保護法益と解される「公共の安全」に対し、具体的な危険が生じたことを要するが、本件においてはこれが生じていないからせん動罪は成立しないかの如く主張している。

しかし、本件においては、前記認定のとおり、具体的危険はもちろんのこと、被せん動者による犯罪実行行為もなされているのであるから、弁護人の主張はその余の点について判断するまでもなく理由がない。

六  更に弁護人は、沖縄返還協定は、米軍の植民地的支配のもとであらゆる権利を侵害されてきた沖縄県民の「即時無条件全面返還」の願いを無視し、日米安保条約のもとで「核つき基地自由使用」という沖縄の軍事基地としての機能を増大させる内容のものであつて、日本国憲法が基本理念とする平和主義(前文及び九条)などと根本的に対立する違憲なものであり、また、当時の佐藤政府は、返還協定批准承認案を強行採決するべく、警察機動隊の厳戒体制によつてこれに反対する集会デモ等を規制禁止する等の措置をとつたのであつて、このことは議会制民主主義を否定するだけではなく、表現の自由(憲法二一条一項)を侵害する所業であるから、返還協定批准阻止の政治闘争は、憲法上の権利として論理的に承認されるべき抵抗権に基づく行動又は国民全体の生存を守るための正当防衛行為ともいうべき刑法上の正当行為であり、被告人の本件各演説は右政治闘争の一環としてなされたものであるから、構成要件該当性ないし違法性が阻却される旨の主張もしている。

前掲の関係証拠によれば、沖縄返還協定の内容が返還後も大部分の米軍基地を存続させるものであつたこと、本件当時沖縄においては、本土復帰の願いは強かつたものの、返還協定の右内容に不満を抱き、「即時無条件全面返還」をスローガンに返還協定批准に反対する運動が根強く存在したこと、政府が野党などの反対を押して返還協定批准承認案の可決に向けて努力していたこと、東京都内においては返還協定批准に反対する学生らが街頭で武装闘争を展開したことから警察機動隊が集会デモ等を規制するなどしたことが認められるが、右認定のような事情が被告人の判示演説を正当防衛とするための要件である急迫不正の侵害に該当しないことは明白であるし、憲法上の権利として抵抗権なる概念を認めるべきであるとの議論が一部にない訳ではないが、仮にこの概念を認め得るとしても、前記認定事情のもとでは被告人の演説に抵抗権の行使を許容する余地は全くなく、右権利の行使と評価すべき余地も全くないのであるから、この点に関する弁護人の主張は採用の限りではない。

(量刑の理由)

本件は、革共同傘下の中核派全学連の執行委員長であつた被告人が、組織の綱領や闘争方針に従つて、当時の政治的課題であつた沖縄返還協定批准を阻止し、政府を打倒するには武装闘争以外にはないとの考えから、判示のとおり、二つの集会でその参加者に判示のような犯罪を実行させるべくせん動したというもので、結果的にも右参加者らによつて被告人の演説の内容とほぼ同じ事態が惹起されたのであり、特に昭和四六年一一月一四日の渋谷駅付近での暴動においては現実に警察官一名の死亡という結果が発生したのであつて、右暴動等が当時の一般社会に与えた影響は甚大であつたことが十分窺われるところである。悲惨な戦争体験をもつ沖縄県民が、当時沖縄返還協定を米軍の基地を存続強化させ再び戦争の悲劇を繰り返すおそれを内蔵するものとして受けとめたことは理解できるとしても、本件における被告人の演説のように、自己の政治的主張を暴力をもつて押し通そうとすることやそれをせん動するなどということは、民主主義の理念を没却させ、またその社会の根幹をなす法秩序を真向から否定するものであつて、とうてい容認されるものではない。

一方、革共同の機関紙「前進」には、判示のとおり、被告人の本件演説とほぼ同内容の武力闘争を訴える記事が本件の数か月前から連続して掲載されていたこと、本件二つの集会における被告人以外の発言者の中にも被告人の演説と大同小異の内容の発言をしている者があること、集会参加者の多くは、被告人と同じ組織に属する者か同調者がほとんどであると考えられ、右「前進」等により事前にせん動内容の犯罪行為を実行する決意をある程度生じていたと窺えること、とにかく、本件後一四年の歳月を経た現在、一般国民の脳裏から渋谷暴動等の事件の重みを過去のものとして忘れさせるに十分な時間の経過があつたともいえなくはないこと等の事情を最大限に考慮すれば、被告人を執行猶予に付する余地も否定しさることはできないと考え、主文のとおりの量刑をした次第である。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 新谷一信 長岡哲次 大澤廣)

別紙一

1 昭和四六年六月一四日付第五三八号

「6・15を突破口に三日間の調印決戦を 死力尽し勝利せよ」との見出しのもとに、「一七日に対する一切の待機主義を排せ!そして、一五~一六の行動で情勢を鋭く切り開く攻撃性を獲得せよ!それなしには、この調印をめぐる死闘にうちかつことはできない。(中略)わが白ヘル部隊の戦士はその一人ひとりが固く武装され、敵に対して最後まで闘いぬけるが故に、全梯団もまた強固である。(中略)闘い、かつ、勝利を欲する全ての人民諸君!白ヘルの隊列に結集せよ!共に闘わん!」

2 同年七月二六日付第五四四号

「日帝の危機に、内乱的死闘の七一年秋期決戦を打ち込め」との見出しのもとに、「七一年秋こそは、かの六九年十一月決戦をもつて開始された内乱的死闘の質をもつた階級闘争が全階級をまき込み、全人民に押し広げられる歴史的転機となることによつて、六九―七一年過程が七〇年代階級闘争に普遍的、永続的質として貫かれることを意味するのであり、七〇年代が常に内乱の危機を孕まざるを得ないものとして方向づけられることを意味するのである。(中略)権力は「爆発物」の脅威に恐怖して「夜間デモ禁止」などという不当なる大弾圧を加えてくるかもしれない。また、騒乱罪や破防法、さらには内乱罪をもつて闘いを鎮圧しようとするかもしれない。(中略)人民は、武器がない時にも闘うが、同時に持てる一切の武器をもつて闘うのだ。(中略)コザを見よ!十・二一新宿を見よ。内乱罪は貫徹された内乱をつぶすことはできない。内乱を欲するわれわれはいささかも内乱罪を恐れない。」

3 同年九月六日付第五五〇号

「三里塚大決戦突入にあたつて」と題し、「農民を殺してでも空港建設を強行せんとする佐藤よ!公団よ!その雇兵たる機動隊よ!三里塚に来るなら来い。だが、生きて帰れるとは思うな!三里塚で機動隊―公団・政府を待ち受けているのは敗北だけである。われわれは首都一万を先頭に数万の全学連軍団をもつて、お前達を包囲し、せん滅してやるだろう。(被告人執筆名義の記事)」

4 同年九月一八日付号外

「十六日、全学連の松尾真新委員長は夜、東京・池袋で記者会見を行い、三点にわたつて見解を表明した。一、本日の闘争は大勝利をおさめた。機動隊員の死亡は敵階級の積年の暴虐に対する当然のむくいである。(以下略)」

5 同年九月二七日付第五五三号

「10・8「協定」批准阻止第一波へ」との大見出しのもとに、「全国すべての闘う労働者、農民、学生、高校生、市民諸君!日本列島を震撼させた三里塚第二次強制代執行阻止闘争の強烈な大爆発、偉大な大勝利のなかから、「沖縄返還」協定批准阻止・入管法再々上程阻止へ、沖縄―本土のすべての戦う労働者人民の力を総結集して闘いぬくべき歴史的大闘争のまつただなかに、いまやわれわれは突入した。もはやわれわれがまつしぐらに断行すべきことは、死力をつくして協定批准阻止・入管法再々上程阻止を闘いとることであり、またそれはまつたく可能なのである。すでにわれわれは、五~六月の調印阻止闘争以来の息もつかせぬ進撃をもつてこの道をきりひらき、とりわけ今回の三里塚決戦において、反対同盟と、この戦闘に総力を投入したわれわれとの固い団結、大胆不敵な戦闘をもつて、三里塚空港粉砕闘争勝利への巨大な展望を押しひらくと同時に、全国の労働者人民の士気をこのうえなく鼓舞し、沖縄・入管決戦の大爆発を決定づけたのである。(中略)十月十六日の臨時国会開会予定日を待つことなく、いつさいの待機主義、敗北主義を排撃し、ただちに戦闘態勢を整え、先制的、攻撃的に大衆的進撃を組織せよ。」

「三里塚第二次決戦勝利の地平ふみ固め、更に大胆に進撃せよ」との見出しのもとに、「三里塚第二次決戦は、民衆の権力との暴力的闘いの歴史における画期的事態を切り拓いたのである。機動隊は各所で殲滅され、混乱せしめられ、機動隊員から三名の死者を出すという大敗北をこうむつたのである。(中略)三里塚における機動隊の死は、まさに天誅であり、階級的報いである。民衆が受けて来た暴力に比らべるならばまだまだ足りない。(中略)三里塚で闘いが機動隊員を死に至らしめたということは、彼らの闘う人民の虐殺に対して今後、それを倍する報復をもつて応えるということである。傭兵にしかすぎない機動隊を相手にわれわれは必ずや勝利するであろう。」

6 同年一〇月一一日付第五五五号

「機動隊をせん滅せよ」との大見出しのもとに、「10・16決戦突入―10・21総力大攻撃に勝利せよ」及び「死地に立つ日帝・佐藤の最後のトメ金機動隊支配を一切の手段で攻撃せよ」の各小見出しで「われわれはこの秋、弾圧と暴虐の限りをつくし、佐藤の尖兵として横暴の限りをつくしてきたこの警察機動隊を至るところで殲滅し、混乱せしめ、無力化させなければならぬ。そしてそれは全く可能である。(中略)われわれは徹底的にこれまでの闘いのルールや枠をとつぱらわなければならない。まだ差し当つて、無差別にときところを選ばず機動隊を攻撃し、威嚇し、殲滅し、混乱せしめることである。(中略)彼らに隙あらばいつでも全人民は襲撃すべきである。彼らが最も油断する時、武装解除した時、安全地帯と思つている時を狙つて潰滅的打撃を与えよ。(中略)国会や首相官邸をはじめとする権力機構の全てと共に、とりわけ警視庁、警察署、交番、装甲車、パトカー、ヘリコプター、そして警察官等々の警察機構の全てを絶えず対象として攻撃し、大混乱に陥し込めようではないか。既に警視総監邸、千葉県警、四機宿舎、軍用列車、交番等々に爆弾が仕掛けられ、あるいは火炎ビンが次々と投げ込まれている。これは実にいいことである。(中略)われわれは自らの身を守り、闘いを進めるためにありとあらゆるものを武器にしなければならない。プラカードや旗を武器にし、道路の舗石を弾にしたように、道路の樹木や歩道柵、ゴミ箱やパチンコ玉から車輌に至るまでありとあらゆるものを武器に転ずることが出来る。簡単な薬品を化合すれば爆弾となり、マツチやライターが武器に転じ布切や、お湯すら武器とできるのだ。(中略)われわれは外ならぬ敵から武器を入手することができるし、やるべきである。装甲車を奪つてわれわれの武器とし、放水車を奪つて機動隊へ向つて放水し、催涙弾やガス銃や棍棒をわれわれのものとすることが出来る。(中略)権力が日常的武装をしているのに対するに、われわれもまた日常的武装をもつて対抗し、権力が最後的には全人民を殺すというルールしか持つていない以上われわれもまた徹底的に敵に確実に打撃を与えるべきだというルールを確立して闘うべきであり、権力が銃をもつならばわれわれは断固それを奪うべきである。(中略)われわれは機動隊を殲滅し、機動隊支配をつき崩すのに、これまでの闘いの枠を徹底的にとつぱらい、闘いの伝統的ルールに固執することなく、これから自らを解放しなければならない。」

7 同年一〇月一八日付第五五六号

「10・21戒厳体制を破れ」との大見出しのもとに、「人民の敵・機動隊を徹底攻撃し、撃滅せよ」、「首都を人民の騒乱で制圧し国会に向けて総進撃かちとれ」及び「五時半、日比谷野音へ総結集せよ」の小見出しで、「十・二一新宿騒乱闘争三周年の闘いは、その騒乱の名にふさわしい闘いによつて、機動隊による首都戒厳体制を打ち破り、批准阻止・入管法国会上程阻止に決定的に有利な地平を切り開き、支配階級をますます危機に追い込むものとなるであろう。(中略)一切の手段を行使し、自ら武装し、十・二一の突撃から十~十一月大決戦に勝ちぬこう。」

「いまや、佐藤に対する一斉の怒りが、機動隊に対する積り積つた怒りとして爆発し、七一年秋決戦は人民とその敵機動隊の大撃突として闘われようとしているではないか。(中略)いまや、人民の敵機動隊に対する闘いはいつさい正義であり、そのためにはいつさいの手段を使つてよく、また、使わなければならない。機動隊服を着ている限りいついかなる場所で、いかなる方角から攻撃してもよく、かつ、確実に敵を打ち倒すべきだという、“道徳”が全人民の中に一挙に普及しなければならない。(中略)全民衆的な危機意識と行動への意欲を機動隊せん滅に向つての闘争に発展させることは全く可能である。(中略)政治情勢の成熟は、いまや、対機動隊戦における軍事的勝利の尺度で測定される必要がある。われわれの手で、全日本人民の手で機動隊を軍事的に粉砕することを、最大の政治的課題にしなければならない。全神経を機動隊せん滅に集中せよ。」

8 同年一〇月二五日付第五五七号

「11・14首都総結集戦へ」との大見しのもとに、「人民の総力あげ、佐藤の傭兵機動隊せん滅を徹底貫徹せよ」及び「10日沖縄ゼネストを全国へ」などの小見出しで、「この10・21闘争が示したものは、第一に、(中略)、しかも第二に、闘う労働者人民の主要な関心事は、もはや協定の是非や佐藤政治の是非についての討論にではなく、いかにしてそれを粉砕するかの行動に向けられており、とりわけ、わが革共同が提起・貫徹しつつある機動隊せん滅の闘いが、闘う労働者人民のなかに圧倒的に浸透し、行動化され、その強烈な大衆的戦闘の高揚のなかから、政治と軍事の高度の結合の道が画然と実現されつつあることだ。(中略)機動隊支配にたいする第一の決定的な衝撃は、いうまでもなく、4・28、5・19以来の調印阻止闘争の大衆的戦闘的推進の頂点としてかちとられた6・17明治公園における大衆的激闘と、それに結合した爆弾の炸烈であつた。(中略)他方、闘う労働者人民は、かかる機動隊にたいする闘いをとおして、快哉の叫びをあげ、自信をつよめるなかで、自己自身を変革し自己の限界を投げ捨てて前進しつつある。「機動隊員を殺すことは人民が勝利するためには当然のことだ」という意識が、「戦犯天皇を処刑せよ」「あらゆる反革命をせん滅せよ」という意識とともに一挙的・大量的に闘う人民のものとなりつつある。(中略)10・21闘争に示された全国の闘う労働者人民のあふれ出る戦闘力を総結集して、われわれは何らのためらいもなく、十一月の大戦闘に突入しようではないか。沖縄「返還協定」と佐藤政府にたいするいつさいの怒りを煽動し、引き出し、そのすべてを機動隊せん滅・沖縄入管国会爆砕・佐藤内閣打倒へと発進せしめよ!すべての闘う人民は、手にすることのできるいつさいを武器に転化し、憎むべき人民の敵=機動隊を叩きのめせ!機動隊・警察にたいする人民の攻撃は徹底的であればあるほどよい。」

「11月へ勝利の弾丸うちこむ 首都中枢で解放区 10・21白ヘル日比谷西幸門で血路」の見出しで、「機動隊せん滅の大歓声をあげ日比谷野音から怒濤の進撃を開始した白ヘルを先頭とする二万の民衆は、日比谷公園西幸門に総集結した機動隊の阻止線に百本の槍ぶすまをかざして真正面から激突し、機動隊の包囲網を突破。」

9 昭和四六年一一月一日付第五五八号

「11・14東京大暴動を」との大見出しのもとに、「11・10沖縄ゼネストに決死呼応せよ」、「全国総動員・機動隊せん滅 敵権力に満身の直撃を」などの小見出しで、「いま、日本の階級闘争は武装警官隊の大量的=個別的撃滅という偉大なる画期的地平に入りこみつつある。それは六・一七明治公園において端緒が切り開かれ、さらに、三里塚九・一六闘争における三名の機動隊せん滅によつてさらに敵の傷口は広がつた。(中略)そこで、さらに重要なことは、六・一七と九・一六はほんの闘いのはじまりであるということだ。いま必要なことは、さらにさらに第二、第三の六・一七や九・一六を実現するばかりでなく、一刻も早く、六・一七と九・一六をのりこえた闘いを実現することである。(中略)まずわれわれ一人ひとりが、六・一七と九・一六を再び十一月十四日に東京で実現することを固く決意しなければならない。まずわれわれが、自らと全人民の身体に刻みこまれている抑圧と屈辱の歴史の全ての重みをかけて、かの憎き殺しても殺したりない機動隊を自らの手で先頭に立つてせん滅するという固い決意に打ち固めらなくてはならない。(中略)合言葉は「機動隊せん滅!」だ。万余の民衆が敵権力を攻撃し、包囲し、せん滅し、街頭を、地域を自らの力で席巻すること、これは当然のことではないか。六八年十・二一には新宿の民衆がやりぬいたではないか。昨年十二月にはコザの民衆が米兵をめつた打ちし車を焼き払い、米軍基地内に突入し、放火し、完全なる勝利を収めているではないか。いまやわれわれは「首都にコザ暴動を!」といつた沖縄青年労働者、学生の呼びかけに真に応えきらなければならぬ。暴動こそ人民の本来の階級闘争のやり方ではないか。(中略)もとより、われわれは機動隊をせん滅するばかりではない。かの残忍かつ陰険なる私服刑事(デカ)に対しても機会あり次第、手当り次第徹底的に日頃の憎しみと怨みをたたきつけ、彼らの中からも機動隊と同運命の人達をつくつてもらおう。彼ら私服刑事は、機動隊服こそ着ていないものの、腰には特殊警棒をもち、手錠をもち、そして内懐には拳銃をしのばせていざという時には人民を殺そうという最も醜悪なる敵の手先である。(中略)われわれはかかる分子を絶対に容赦せず、これからは特に狙いをつけていくであろう。そして拳銃の使用に対してはわれわれは本紙前号において十・二一の痛苦な経験としてはつきり自己批判しておいたはずである。すなわち、「人民に銃を向けたこの警官をとり逃したのは全く残念である。わが身に向けられた銃を奪い、向けた敵を捕獲、せん滅することこそ革命の鉄則だつた」と。私服刑事に対するわれわれの闘いはまさに正当なる報復いがいの何ものでもない。彼らを機動隊と同様、武装解除=せん滅の運命に追いやることは絶対的義務である。さらには、人民の中にもぐり込んだスパイ分子ならびに、公然たる敵の民間協力装置たる自警団のせん滅も当然である。彼らを徹底的にたたきのめす必要がある。(中略)このように十一・一四は民衆の大反乱の日にほかならないのだ。抑圧され押し殺されてきた民衆の一切の怒りの弁は解きはなたれなければならない。(中略)人民に不利なものを破壊し尽し、焼き払い、必要なものは奪い尽せ!こうした民衆の暴動的総決起のみが腐り切つた政治を打ち倒し、社会を変革しうるのだ。流血なしにそれを実現することはできない。六・一七―九・一六をはるかにのりこえる十一・一四を!沖縄のコザ暴動を、農民の北総暴動を上回わる首都東京暴動を!」

「東京大暴動決起宣言」の見出しで、「全ての英雄的戦士諸君!三里塚―天皇―十・八~一六~二一、そして爆弾ゲリラ闘争を頂点とする全ての戦闘を敢行してきた全日本の戦士諸君!ついに、日本帝国主義―沖縄「返還協定」批准を推進せんとする機動隊をはじめとした全てのものに対し、そのせんめつのために、史上空前の総攻撃にうつてでる日が設定された。その日こそ、十一月十四日である。」

10 昭和四六年一一月八日付号外

「11・14渋谷に大暴動を」の大見出しのもとに、「11・14全国総結集・東京大暴動闘争 「返還協定」批准実力阻止 「沖縄・入管」国会粉砕全国総決起集会 午後1時宮下公園(渋谷駅下車) 主催全国反戦、関東叛軍、東京入管闘」と報じ、「首都にコザ暴動を」との大見出しで、「自ら武装せよ!敵から奪え!一切を武器に転化せよ!人民の敵・機動隊、デカ、自警団ら一切の反革命分子を撃滅せよ!」とし、更に渋谷駅周辺の地図を掲載し、それに交番、大銀行、ガソリンスタンド、独占資本などの所在位置を記号で示すもの。

11 昭和四六年一一月八日付第五五九号

「11・14渋谷大暴動へ」との大見出しのもとに、「全国から直ちに上京せよ」及び「渋谷を人民の手で制圧し全都の機動隊支配を潰滅させよ」の見出しで、「十四日の暴動はまさに尋常一様の闘いではないのだ。全戦士が「十四日には必ず○○するぞ」という固い決意、その計画をあらかじめはつきりと確定して闘いに臨まなければならない。(中略)われわれは暴動のただ単なる参加者ではない。その組織者として宣伝、扇動をし、そして突撃隊として人民の大河の中に進んで自ら赴いた戦士であるはずだ。(中略)とりわけ、渋谷が大戦場となる限り、その地理の細部にわたつてまで知り尽し、使い尽さねばならない。本紙号外で「渋谷周辺図」の概略を示したのはダテではないのだ。だが地図だけでは決定的に不充分である。あらかじめ渋谷を歩いてみるべきである。そして、交通手段、攻撃対象、方法などを事前に大胆に調べてみるべきだ。とりわけ警察機関や大独占体への狙いははつきりと定めねばならない。全戦士が攻撃方法について考えぬくべきである。(中略)一四暴動では、政府=国家権力独占体に対して容赦なく徹底した破壊と攻撃を加えよ。とりわけ、われわれは自らの武器を集中的・有効的に使うという精神に徹しなければならない。(中略)また、敵の武器、資材は大胆に破壊、奪取、調達、行使し、とりわけ警官がピストルなどをぬき、発射したらまさに捕獲、奪取、せん滅するべきである。正規軍とゲリラを結合し、前後左右、ありとあらゆる角度と方法で敵に致命的打撃を与えよ。(中略)渋谷に人民広場がつくり出され、渋谷警察が焼き打ちされ、機動隊がせん滅され、犯罪的な佐藤自民党内閣に政治献金を送り支えている独占資本が人民の手によつて鉄火の糾弾を浴びる必要がある」

「渋谷で機動隊を大撃滅せよ」と題し、「十一・一四こそは、まさにそのような闘いとして全人民の前に提起されているのであり、全人民は決起し、文字通り、東京大暴動を起し、人民の敵、機動隊、私服をせん滅しつくそうではないか。(中略)十一・一四先制攻撃で敵に人的、物的に甚大な潰滅的打撃を与え誰の目にも明らかな勝利をかちとろうではないか。十一・一四へ、すべての準備を完了せねばならない。全学連は、あらゆる武装を、すでに準備しおわつた。そして、すべての諸君は、全学連とともに進撃すべく、武器を準備し、十四日、全国津々浦々から戦場、渋谷へむかおう。(中略)そして、敵が、われわれにたいして破防法発動をも準備し、われわれのせん滅をめざしている以上、十一・一四の闘いでわれわれは何の遠慮をする必要があるだろうか。破防法が禁止しているほどのこともやらずして、われわれの勝利はない。(中略)機動隊、私服、自警団を徹底的にやつつけよ!機動隊せん滅戦勝利で、人民の刃を佐藤の喉元に突き刺せ!十一・一四東京大暴動勝利万才!沖縄「返還協定」批准阻止、入管法国会上程阻止!沖縄奪還、安保粉砕・日帝打倒!日本プロレタリア革命万才!私は最先頭で勝利のために闘う決意である。(被告人執筆名義の記事)」

別紙二

「機動隊を殲滅し「沖縄―入管」大決戦に勝利せよ!」と題し、「全ての諸君!佐藤内閣はいま、ただ人民の怒りを湧き起こし、支配階級を危機にひきずりこみ、内乱のはじまりを待つためにのみ存在しているようなものだ。この佐藤内閣を「沖縄・入管」国会もろとも爆砕しようではないか!では学友諸君!勝利の鍵はなにか。それは機動隊の殲滅にかかつている。(中略)人民の誰もが機動隊を、警察を憎んでいる。三里塚で機動隊員三名が死亡したとき、民衆は、「天罰だ!奴らは地獄へ行くのだ」と言つた。この怒りが、この憎しみが勝利につながつている。全人民の怒りと憎しみを唯一点機動隊・警察権力にむけ、全国の学生はその最先頭で機動隊を殲滅するために闘い抜かねばならない。すべての学友諸君!その機動隊殲滅の勝利は全く可能である。三里塚を見よ!われわれ労働者学生は、三個大隊を殲滅した。まだまだ小さいが、しかし、三里塚は今秋、機動隊を殲滅しうる大展望をきりひらいているのだ。いまや機動隊殲滅あるのみである。機動隊殲滅こそが「沖縄・入管」大決戦の勝利の道だ。全学連は断乎として闘う。すべての百五十万学友諸君!全学連に総結集し、機動隊を殲滅―「沖縄・入管」大決戦に必ず勝利しよう!(被告人執筆名義の記事)」

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